DATE : 2007/05/05 (Sat)
『人はなぜ逃げおくれるのか ――災害の心理学』(広瀬弘忠、集英社、2004年)を読みました。
広辞苑第五版によると、
- 恐慌(恐れてあわてること)。
- (火事や地震などに遭った時に起る)群衆の混乱。個人の混乱状態にも言う。
がパニックの意味(恐慌の後のカッコは広辞苑による「恐慌」の意味)となっています。
災害にあったとき、平常心でいられる人は少ないと思います。私は自信ありません。
(;^ω^)能登半島地震やその余震では、被害はなかったにもかかわらず妙な高揚感を感じましたしね。
しかし、それが群衆の混乱としてのパニックには、特定の条件が揃わないと発展しないのだそうです。つまり、個人個人は不安や恐怖で精神的に不安定な状況下に置かれていても、先を争って他人を押しのけたりするような非合理な行動にはつながらないというのです。群衆の混乱が起こるには、以下の条件が主観的に成り立つ必要があるのだそうです。
- 過度の恐怖・不安
- 危険を逃れる方法がある
- その方法に緊迫的な時間的・空間的などの条件がある
- 周囲や全体の状況が把握できない
群衆の混乱が起きた時には、上の条件がほとんど満たされていたそうです。そして、現実には、群衆の混乱は滅多に起こらないのだそうです。ここから、混乱を恐れて情報を出し渋ったりすると、人々は避難行動を起こさず、逆に被害を拡大する結果になると本書は説いています。
「パニック」という言葉の中に、個人の不安(1番目の意味)と群衆の混乱(2番目の意味)が混在していること、また「パニック」という行動が傍から見て劇的なものなので、災害→群衆の混乱としてのパニック(パニック神話、災害心理の専門家がそのような常識を揶揄するときに使うそうです)に繋がるのでしょうね。
ただ、上の条件から見ると、下手な災害対策を行うと、逆に群衆の混乱をうながすことに繋がりそうな気がします。対策をする時点で、「危険を逃れる方法がある」という条件は確実に満たされます。そして、客観的には、危機から逃れる方法には時間的・空間的な制約が付いてまわります。すると、避難路などから時間的・空間的な制約をいかに感じさせないようにデザインするかが重要になってきます。本書でも、「パニックを防止するためには、(中略)きちんとした判断力を持った専門家による、微妙なサジ加減が大切」と述べられています。
ちなみに本書では、災害心理学の他にも、災害が社会に与える(必ずしも負の面だけでない)影響なども語られていて、災害が与える心理的・社会的な影響を一望できるものになっています。