DATE : 2007/07/02 (Mon)
「現代観光総論 第三版」(前田勇・編著、学文社、2006)を読みました。「観光」について、その定義・歴史・制度・経済・環境・社会・心理など様々な視点から解説した本です。
Wikipedia の「観光」を見ると分かりますが、一口に「観光」といっても非常に奥の深いことがわかります。観光者側から見ればただの楽しみに見えますが、提供者側から見れば、貨幣の取得手段だったり、地域の活性化手段だったりするわけです。また、観光者側の暮らしに影響を受けて地域の暮らしが変わったりなど、文化的な側面も持っています。
(;^ω^)私はソフトウェアを作る側の人間なので、ソフトを利用する側の人の心理や、その人々の暮らす社会に視点を当ててこの本を読みました。
その視点から見て特に面白く感じたのは、現代は「余暇社会」に移り変わりつつあるということです。産業革命時代は1日のほとんどが労働時間で生活も豊かではありませんでした。それが現代では、豊かな生活の上に金銭的余裕、時間的な余裕もでてきました(例外はありますが……)。そのため、自分の意思で使える自由時間が増えてきました。すると、経済的な豊かさ以上に精神的な豊かさが求められるようになります。労働よりも余暇を重視する人が増えてきます。このような社会を「余暇社会」と呼ぶのだそうです。
( ^ω^)ブログや mixi が人気なのも、余暇社会の影響かもしれませんね。
加えて、日本の交通網はかなり整備されていますから、あちこちへ手軽に行けるようになりました。観光はもう十分身近になったと言えます。
(;^ω^)すると、あとはどのように人々を観光に促すかという点が重要になってくるような気がします。そもそも観光先のことを知らなければ、観光には出られません。また、手軽に行けるとはいえ、自動車の場合は自分で運転しないといけませんし、公共交通機関の場合はチケットなどを予約したり、計画を立てたりしなければいけません。その面倒臭さを払拭できるような提案ができるかどうかが問題ですね……。
DATE : 2007/05/27 (Sun)
「Code Complete 第2版 ――完全なプログラミングを目指して」(Steve McConnel 著、(株)クイープ訳、日経 BP ソフトプレス、2005)を読みました。
変数名やインデントの付け方から開発工程まで、ソフトウェア開発に関する話題を一望できる本です(ただし、半分以上はプログラミングに関する話題で占められています)。
中でも興味深い部分は「言語の中でのプログラミング」と「言語の中へのプログラミング」でした。前者は、プログラミング言語やツールに用意されたものの範囲内に考えを限定してプログラミングを行うことで、後者は、用意された言語やツールを利用して考えを表現します。つまり、考えが言語やツールの中にあるか外にあるかということです。
(;´Д`)思えば、私も「言語の中でのプログラミング」からまだ抜け出せていないようです。Java ではうまく書けたことが他の言語になるとうまく書けないことも良くありますし。
他にも、コメントの付け方なども興味深い点でした。この点は、いつも迷っているところだったので、明確な指針が必要と常々考えていました。なので、コードを書く時期によってコメントの量や付け方が変わっていたのですが、本書のおかげでコメントの適切な付け方を学べました。これだけでもかなりの価値があるように思います。
(;^ω^)こう考えると、しっかりとした基盤や指針のない経験というのはかなり危ういものだと気付かされます。ある時は良い書き方をしていたのが、指針がないばかりに次には悪い書き方に変わっていたり、逆にさらに良い書き方になっていたり、良い・悪いの判断が主観に頼るしかないため、非常に不安定です。
( ^ω^)なので、コードの書き方に迷った時の指針として、この本は必須ですね。
DATE : 2007/05/13 (Sun)
「推計学のすすめ 決定と計画の科学」(佐藤信、講談社、1968年)を読みました。
推計学、主に仮説検定・確率分布・相関・実験計画法を解説した一般向けの本です。
統計学を学んだことはあるのですが、どのような時にどの手法を適用すべきかいまひとつ理解できていなかった私にとって、これは非常に分かりやすい本でした。数式も細かいものは出てきません。最近は細かい計算は全て PC がやってくれるので、こういった根底部分を解説した本は逆に貴重です。
また、真の乱数と直感で作られた乱数との食い違いを述べられているのは興味深い点でした。乱数というイメージからは、適当な数字が並んだ数列が思い浮かびます。ところが、無意識のうちに同じ数字が続く可能性を排除しています。例えば、33……と同じ数字が続くと、別の数字を差し込みたくなってきます。このように乱数を直感で生成すると、恣意性が紛れ込み、数列に特定のパターンが出てきてしまいます。そのため、本書では直感から生成された乱数の危険性も説いています。
(;^ω^)最近は PC 上の擬似乱数が使えるので、(真の乱数を必要としない限りは)乱数表もサイコロも必要ありません。しかし、ちょっと面倒臭い時にはつい頭の中で適当な乱数を作って使ってしまうことがあるので、今後はきちんと擬似乱数を使おうと思いました。
DATE : 2007/05/06 (Sun)
『渋滞学』(西成活裕、新潮社、2006年)を読みました。
交通からインターネット、体内にいたるまで世界のあちこちに潜む渋滞現象を解き明かし、それらを解決する糸口を探る本です。また、広告や森林火災など、渋滞が望ましい状況に応用する糸口も書かれています。
内容は物理的で数学的です。ホースで水を出す場合、出口を絞れば水の勢いは増しますが、人の場合は出口を狭めると勢いは衰えます。それは、水と人では従う力学が異なるためなのだそうです。水はニュートン力学系、人は自己駆動粒子系に従うのだそうです。本書は、この自己駆動粒子系の話とも言えます。
「自己駆動粒子系」という字面を見ると、さらにややこしそうな話に見えますが、本書の中には数式がほとんどでてきません。というのも、ASEP という簡単なモデルを使っているからです。縦一列に並べた箱の中に玉をいくつか入れ、全ての玉を一つ前の箱に動かすとします。この時、一つ前の箱に玉が入っていれば動かす対象の玉を動かさないというルールを設けます。これが ASEP です。
この ASEP に様々なルールを加えたものをセルオートマトンでシミュレートすることで渋滞の現象を再現しています。簡単なモデルからここまで複雑な現象を再現できる部分は非常に面白く感じました。
それにしても、渋滞という現象がここまでいろいろな部分に潜んでいるとは驚きました。渋滞という概念の基に同じ解決手法が使えるという点に、渋滞学の幅の広さと奥深さを見ました。
しかし、人や物が集まれば、空間的な制約がある以上、そこに渋滞が発生するというのは十分ありうることなんですよね。人や物がさらに過密する将来に渡っても非常に役立つ分野になるのではないでしょうか。
(;^ω^)個人的には、部屋が物で溢れているので、そこをうまく整理する方法が欲しいのですが、これは渋滞学では無理そうですね。そもそも心がけがないと orz
DATE : 2007/05/05 (Sat)
『人はなぜ逃げおくれるのか ――災害の心理学』(広瀬弘忠、集英社、2004年)を読みました。
広辞苑第五版によると、
- 恐慌(恐れてあわてること)。
- (火事や地震などに遭った時に起る)群衆の混乱。個人の混乱状態にも言う。
がパニックの意味(恐慌の後のカッコは広辞苑による「恐慌」の意味)となっています。
災害にあったとき、平常心でいられる人は少ないと思います。私は自信ありません。
(;^ω^)能登半島地震やその余震では、被害はなかったにもかかわらず妙な高揚感を感じましたしね。
しかし、それが群衆の混乱としてのパニックには、特定の条件が揃わないと発展しないのだそうです。つまり、個人個人は不安や恐怖で精神的に不安定な状況下に置かれていても、先を争って他人を押しのけたりするような非合理な行動にはつながらないというのです。群衆の混乱が起こるには、以下の条件が主観的に成り立つ必要があるのだそうです。
- 過度の恐怖・不安
- 危険を逃れる方法がある
- その方法に緊迫的な時間的・空間的などの条件がある
- 周囲や全体の状況が把握できない
群衆の混乱が起きた時には、上の条件がほとんど満たされていたそうです。そして、現実には、群衆の混乱は滅多に起こらないのだそうです。ここから、混乱を恐れて情報を出し渋ったりすると、人々は避難行動を起こさず、逆に被害を拡大する結果になると本書は説いています。
「パニック」という言葉の中に、個人の不安(1番目の意味)と群衆の混乱(2番目の意味)が混在していること、また「パニック」という行動が傍から見て劇的なものなので、災害→群衆の混乱としてのパニック(パニック神話、災害心理の専門家がそのような常識を揶揄するときに使うそうです)に繋がるのでしょうね。
ただ、上の条件から見ると、下手な災害対策を行うと、逆に群衆の混乱をうながすことに繋がりそうな気がします。対策をする時点で、「危険を逃れる方法がある」という条件は確実に満たされます。そして、客観的には、危機から逃れる方法には時間的・空間的な制約が付いてまわります。すると、避難路などから時間的・空間的な制約をいかに感じさせないようにデザインするかが重要になってきます。本書でも、「パニックを防止するためには、(中略)きちんとした判断力を持った専門家による、微妙なサジ加減が大切」と述べられています。
ちなみに本書では、災害心理学の他にも、災害が社会に与える(必ずしも負の面だけでない)影響なども語られていて、災害が与える心理的・社会的な影響を一望できるものになっています。